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秋祭りでアミダクジ屋をやったら、オランダさんが悪徳令嬢化してわろた(´;ω;`)パチスロ生活者が異世界転生した小説9話。

「はははは!これで豚汁券5枚だ!はやく次のアミダを準備せんか!」

ヘンタイ領主が声高らかに行った。明らかに上機嫌だと分かる。領主が秋祭りに来ているということで、人が集まってきて、大当たりが出る度に熱気に包まれた。園児達の歌とダンスのヴォルテージも増して、場が熱気に包まれていた。

……おかしい。誰も気にしていないというか、領主本人も気付いていないが、アミダクジの線10本に対して大当たりは1本。十分の一。明らかに、その確率を上回る大当たりを領主は引き続けている。

「はやく!はやく!はやく!次のアミダを用意せんか!」

領主が次の勝負を促す。園児達が模造紙を張り替えて、アミダの途中の部分を黒い布で覆った。そうすると、領主は「そこじゃ!」と一本を決めた。すると、オランダさんが「本当にそこですか?ファイナルアンサー?」などと、もったいぶったやりとりをしていた。その間も、園児たちは歌とダンスを続けている。

その一連の流れに、違和感を覚えた。そして、なんとはなしにアミダを貼り付けているツギハギの板の裏側を覗いてみた。そこには、ヒン君がいた。本名は、トクシュ=ケイ=ヒン君。ヒン君は、手元のメモを見ながら、筆を持ち、模造紙に横棒を足していた。一緒、何が起きているのか分からなかったが、状況が分かってくる。ツギハギの板は、実は裏からパズルのピースのように外すことができ、模造紙のような紙は、習字の半紙のように墨をよく吸い込むようだった。つまりは、領主が線が決めてから、裏側から横線を足して、大当たりに導いていたようだ。

偶然の結果で勝敗を決める遊戯に免疫のない領主や住人達は、十分の一の確率を20回連続で引き当てる確率的なありえなさに気付かないし、勝てる!勝てる!勝てる!と領主と民衆のテンションは上がり続けた。豚汁券は、もう100枚も手に入れている。1枚100チンで払い戻したら10000チン。アミダの参加費はトータルで5000チン。差し引き5000チン。パチスロ生活者じゃなくても分かると思うが、こんな大当たり確率と換金ギャップは、そもそも勝負してはいけないレベル。分配率で言えば、宝くじに近いくらいだろうか。

ただし、そんなことは領主が知るはずもなく、「次だ!次だ!」と大きな声を発していた。その様子を見て、昔知り合ったとある大学のとある学生寮、京都大学吉田寮の寮生のことを思い出した。彼は、麻雀が得意で、地方から出てきた若者や、中国からの留学生を麻雀の沼に沈めていた。彼が言っていたのは「遊びのレートで相手を勝たせて、場が熱してから、レートを釣り上げて、タコ殴りにする」ということだった。地方出身の若者は、親から渡された腕時計のオメガを質屋に入れ、中国人留学生にはアルバイト情報誌を手渡したらしい。そんな話をなぜか思い出したけど、それと同じことが目の前で繰り広げられようとしていた。

「ええい!次だ!はやく勝たせろ!はやく準備をせんか!」

領主は我を忘れている。今思うと、アミダの張替えなどの手間のかかる段取りも、領主をじれさすための意図的なモノだったのかもしれない。園児たちも一生懸命やっているようで、動きがもたついている。わざとやってる。

「領主様、ご相談があります。アミダの準備にはやはり時間がかかりますので、1回のゲームに10倍の重みをつけるというのはいかがでしょうか。」

だいたい、予想通りのことをオランダさんが言った。

「10倍?10倍とな?」

「はい。遊技料金は10倍の2500チンとさせていただきますが、大当たりの豚汁券も50枚とさせていただきます。」

「良いのか?今の我は、あれじゃぞ?軍神じゃぞ?1万本の矢じゃぞ?」

領主はテンションが上がりすぎて、言っていることが意味不明だったけど、自分は強運であると言いたいらしい。

「構いません。いかがなさいますか?」

「やるに決まっておろう!そこじゃぁ!」

アミダクジが貼り終わると、領主は1000チン紙幣を三枚オランダさんの手に勢いよく握らせ、握らせたあとに何回か揉んだ。ワリーちゃんがお釣りの500チン玉を持ってきたが、オランダさんは手でそれを制した。領主は、お釣りよりもアミダの結果に夢中である。

園児たちの歌とダンスが始まる。

「ディンディーン、ディディディ・ディ、ディンディン・ディディディディ……」

オランダさんの指し棒は、下へ下へと線をなぞり、その結果は……大当たりであった。当たり外れを操作できる10倍レートの勝負を制した領主は、完璧な強運の持ち主……ではない。目を疑ったが、またしてもヒン君が横棒を足していた。10倍レートでも勝たせるということは、つまり……。

「悪徳令嬢。」

思わず呟いた。俺が日本で最初の死を迎えた時に流行っていた言葉だ。パチスロの期待値には関係ないし、言葉だけ知って、その意味などは知らなかったし、今のこの状況、オランダさんに向けて使う言葉として正しいのか分からないのだが、とにかく、その言葉が思い浮かんだ。

「100倍じゃあ!100倍で勝負じゃあ!」

「うおぉぉぉぉ!!!」

秋祭りのボルテージは完全に最高潮になっていた。気がつけば、祭りの客のほとんどが豚汁屋のまわりに集まり、お祭り舞台の催しで呼ばれていた歌手もやってきていて、園児たちと「ディン・ディ~ン♪」とこぶしをきかせて歌っていた。

領主は1万チン紙幣2枚と5000チン紙幣を1枚をオランダさんに握らせ、気合いを入れるように「さらば、諭吉!」と叫んだ。完全なる偶然の一致だが、この世界の1万チン紙幣の肖像は福沢諭吉であった。

「当たり!見えた!きえー!そこぉっ!」

この日、領主は誰よりも大きな声で、そう叫んだ。アミダ板の裏をのぞくと、ヒン君は、汗をタオルで拭きながら、お茶を飲んでいた。横棒は足されてない。真剣勝負だったが……領主は、どうやら強運の持ち主ではなかったらしい。


ギャンブルにおいて、一番危険な心理は「負けを取り返そう」とすることである。100倍レートの勝負になってから、領主は続けて3回勝負して、中当たり1回、ハズレを2回引いた。そして資金が完全にショートした。領主の手元に残ったのは、1倍レート20回での大当たり分の豚汁券100枚。10倍レート1回での大当たり分50枚。そして、100倍レートでハズレ3回、中当たり1回で500枚。

総投資10万7500チンで、獲得は650枚。豚汁券は1枚100チンで払い戻せるので、払い戻したとしたら6万5000チンとなり、結果は4万2500チンの負けである。収支だけ見ると、非常にパチスロの結果ぽくある。

もはや、650枚分の豚汁を用意するとか用意しないとかの話ではなくなり、領主は完全に真っ白になっていた。ギャンブルが存在してなかった世界。初めての射幸心と、初めての大敗北。領主は茫然としていたが、やがて、口元に笑みが溢れた。そして、なぜだか見守っていた観衆は、自然と拍手を始めた。なぜだか、「領主はよくやったよ」とか「男だよ」とか、そんな声も聞こえだした。この世界において、おそらく、初めての経験であった。

「豚汁券ですが、いかがいたしましょう?さすがに650杯はご用意できません。1枚100円で買い戻させて頂いておりますが?」

領主からアミダの熱が引いた頃、オランダさんが話しかけた。

「良い。せっかく手に入れた戦果をチンに変えてしまうのは無粋というものだろう。そうだな。祭りは終わったが、可能であるなら……明日からで構わんが、我が部下達に豚汁を用意してくれまいか。」

領主の部下とは、駐屯所に詰めているライ=ザップさん達などで、警察任務にあたるものや、領主の館の雑用係などを含めて30人程度いるらしい。

「それは……どうしましょうか?」

オランダさんは、幼稚園の園長であり、実母であるババア園長に目配せをした。どこか芝居がかっているようにも思えた。

「分かりました。それでは私共で毎日豚汁を用意させていただき、配達させていただきます。」

これから毎日、園児と豚汁を作るのか、圧倒的に領主にアミダで勝ったけど、豚汁作りは大変だな。いっそのこと換金してくれた方が話は早いのだが……そんなことを考えていた。

領主は、部下たちを引き連れ、秋祭りを後にした。豚汁は、もう売り切れていたのだけど、アミダクジ屋は、祭りの終わりの時間まで続いた。横線を足す小細工をしなくても、儲かりに儲かった。


「後悔してませんか?」

「え?」

屋台の片づけをして、帰路の途中でオランダさんに話しかけた。ババアは大荷物を乗せたリヤカーをひき、園児たちは、それを手伝ったり、リヤカーに乗ってたりした。

「後悔してませんか?貴方が今日やったことは『悪』ですよ。」

「悪ですか?私は、領主様に大当たりをプレゼントしたんですよ?最後の4回は真剣勝負でしたし。」

「悪です。」

俺がそう言い切ると、オランダさんは、夜空を見上げて、すこし間を置いていった。

「あなたを30日間も余分に牢屋に入れ続けた、あのヘンタイ領主を懲らしめたかったという気持ちはありました。」

耳を疑った。

「でも、100倍のヤツを4回もやるとは思ってなかったんです。止めもしませんでしたが。1回外れたらやめるだろうと思って。それでも悪ですか?」

なるほど。もしも、100倍を1回外してやめていたら、3万2500チンで、豚汁券250枚ということになる。そこまで悪徳とは言えないかもしれない。そして、100倍に関しては小細工もしてなかったわけだが……。

「悪ですね。」

100倍のレートを提案したのは領主だった。そして、そこまでの道筋を用意したのはオランダさんだった。

「悪ですか……。」

暗くてよく見えなかったが、あのオランダさんがしょげたような気がした。

「悪ですが、胸をすく思いです。俺のためにやってくれたんなら、嬉しいです。」

その後は、オランダさんは何も言わなかったが、いつの日か、市場からの帰りに偶然出会った時よりは、和らいだ空気だったと思う。しかし、翌日に本当の巨悪があらわとなる。

領主のところへ配達する豚汁は、園児たちと作るものだと思っていたが、そうじゃなかった。ババア園長は、幼稚園以外にも給食事業を手掛けているらしい。幼稚園の昼ごはんもそうであるし、宅食であるとか、仕出し弁当の配達であるとか、学校給食なども一部取り扱っている。領主への豚汁は、その事業の一環として行われ、豚汁の配達は一ヶ月続いた。領主の部下達への食事は、これまで領主の館の厨房で作られていたのだが、豚汁が好評だったために、豚汁券を使い切った後も、継続して行われることになった。豚汁だけじゃなくて、コンソメスープなどもメニューとして加わった。

オランダさんが言うには、領主の館30人分の毎日の食事というのは、様々な業者が参入しようとしていたが、コック長が頑固であったために、入り込むことができなかった。その中に、汁物として入り込めたことは、売上は大きくないが、今後の突破口が開いたという意味で、すごいことらしい。

「イエス!イエス!」

ババア園長は、夕日に向かってガッツポーズを繰り返していた。あの日見た、ババアの鈍い目の輝きの正体は、これだったのだろうか?ギャンブルのなかった世界の純朴な人々、母娘と思っていたけど、少なくともこの母親と娘に関しては、俺が思う以上に強かなのかもしれない。

流れに身を任せた形であったが、秋祭りのアミダクジ屋台という形で、俺の望むモノに一歩近づけた気がした。ただ、100倍レートに挑む領主の狂気の表情を思い出すと、これが正しい道なのか?とも思った。人が幸せになるギャンブルってあり得るのだろうか。

日本にいた時のことを思い出した。毎日、パチンコ屋に行き、ライバル達と当たり台を競い、G数、期待値をハイエナし、1日が終わったらDMMぱちタウンのデータをGoogleスプレッドシートに入力する。好きなことで生きていたけど、あの日々は、幸せだったのだろうか。秋祭りの夜のあの熱と、その後にオランダさんと話して帰った時間を天秤にかけてみると……かけるまでもないのかもしれない。

そうだ。キョウ君には、お詫びに何かプレゼントでも贈らねば。何が良いだろうか。食べてなくなるものの方がいいかな。余談ではあるが、夕日に向かってガッツポーズを連発していたババア園長は、翌日、腰を痛めた。


~狂気!地獄アミダクジ編・完~

おしらせ。

アイデアが完全に尽きたので、10話の更新には、しばらくお時間いただきます。ほんとうです。