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パチスロ生活者が異世界転生した小説1話・自粛警察に毒殺された俺。

目の前に青い空が広がっていた。ああ、死んだのか。俺が住んでいる町に、こんな空はない。ここは天国だろうか。もしかしたら、天国風の地獄かもしれない。生きている時に、何一つ人の役に立たなかった自分が天国に行けるはずがない。

自分が死んだ時のことを思い出していた。これは、生前の記憶と言えるのだろうか。あの時から、パチンコ屋の出入り口にはアルコールが常備されるようになり、入店にはマスクの着用が義務となったし、店内は完全禁煙になっていた。タバコを手にもって店に入ってきて、禁煙であることを察して、すぐに店を出ていった浮浪者風の男のことを思い出した。

天国か、天国風の地獄で思い出すにはどうでもよい思い出だが、マスクがいるようになった、あの頃な。目の前に広がる青空と、流れる雲を見ながら、現状を確認しようと記憶をさらにたどっていくために、目をつぶった。

あの頃、店に入る時は手を消毒してたけど、店から帰る時は消毒をすることはなかった。アルコールがもったいなく思えるからだった。ある日、そのアルコールのボトルの横に飴が置かれていた。百均で売っているような篭風のトレイに、ねじってあるタイプの飴が山盛りになっていた。

普段は、飴なんて食べないが、その日は、なんとなく口に運んだ。経営が苦しくなっていくであろうパチンコ屋が見せた、せめてもの経営努力だったのかもしれない。

飴を食べた後に、苦しんで死んだ。俺が倒れた後に、人が集まってきたのは覚えているが、その後は覚えてない。「死んだ」という結論が最初に出てきたのは、目の前の空の青さがそう思わせたのかもしれない。

自分に起きたことを想像していく。飴の中に毒物が入っていたのじゃないだろうか。以前、玄関先のクリスマスツリーにホウ酸団子で作った飾りをつけておいたら、他人の飼い犬が食べて死んだという事件があった。頭のおかしい事件だと思ったのだが、パチンコ屋の飴にホウ酸団子じゃあないとしても、毒が混ざっていたなら、それはパチンコ屋を憎む者の犯行だろうか。パチンコ店が客を毒殺するわけはなく、パチンコ客を憎む存在というのは、思い当たる。

もう自分には関係ないが、あの頃、なつかしいとも思わないが、パチンコ店や、店員、客が徹底的に悪として叩かれていた。その風潮や、その総括は、自分には関係のない話なのだが、犯人は逮捕されたのだろうか。

自分が生きていた頃を思い出すと、なんとも世知辛い世の中の中でも、もっとも世知辛い時期に死んだのだと思う。未だに、ここが天国か地獄かもわからないが、生前の自分のことを思い出すと、誰の役にも立たず、何かに貢献するわけでもなく、税金も納めず、データを調べ、ライバルと台確保を競い合い、期待値を拾い、メダルを拾い、ただただ目の前のパチスロに向かいあうだけの日々だった。

3万円負ければ悔しく、5万円勝てば次の投資にまわし、最低限の食事をし、最低限の生活をしていた。こんな自分が死んでも世の中にまるで影響がなかったと思われることが悲しいが、根拠の希薄な憎悪の向かう先という意味で、世の中に問題提起はできたろうか。犯人も被害者も「ざまぁ」ということになっているだろうか。


ここは、地獄ではないのかもしれない。天気が良いのもあるが、日差しは暖かく、風は適度に冷たい。「一年中、こんな時期だったらなあ」と思える気温である。ずっと目をつぶって寝っ転がっているのももったいなく思えたので、立ち上がることにした。

まわりを確認すると、自分は丘のような場所に寝っ転がっていたらしい。丘というものを歩いたことはないが、テレビで見たことのある夏場のスキー場のような風景だった。緩やかな傾斜があり、遠くには、森だか林が見える。ここは、やはり地獄ではないのかもしれない。

その景色は、現実感があり、もしかして自分は生きているのじゃないか?と思って、なんとはなしに、股間に手をあてた。その感覚が生きているためのものか、そうじゃないのかは分からない。

ただ、生きていたとして、パチンコ屋で毒飴を食べて倒れてから、丘の上で寝っ転がっているというのは行動が連続しているようには思えない。いや、そう言えば小学生の時に、朝の運動の時間に同級生とふざけあって頭を強打して、気がついたら、午後の授業になっていたことがあった。その現象の長い版が起きたのではないか?

毒物で意識不明になったが、一命をとりとめて、精神に障害が残り、その療養のために田舎の施設か何かに入り、今は散歩の時間なのじゃないか?だとしたら、近くに介助をしてくれている人がいるのじゃないか?そんなことを考えた。

目の前にある景色が天国なのか、地獄なのか、はたまた異世界であるのか。立てば足が地面を踏みしめ、目は光を感じ、肌は風を感じる。この現実的な感覚が、自分が死者である認識を壊していく。

死んだのかもしれないし、生きていて記憶が飛んだだけなのかもしれない。とにかく状況を確認すべく、俺は歩き出した。朝イチに入店した後に、バジリスク絆2の有利区間ランプの非点灯を確認した時のことを思い出した。あの時は、確認する順番を決めていたから、自然と早足になったものだが、今は、なんとなくの速度で歩く。

ここが天国でも地獄でもいいから、パチスロ打ちたい。


続く。