大学院卒ニート、しやわせになりたい。

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射幸心のない世界・パチスロ生活者が異世界転生した小説6話。

ユウ君が見つかったのは、用水路の奥、暗渠(あんきょ)となっているところで、命には別条はなかったが、衰弱していた。

「それでは、悪意を持って流布した訳ではないのだな?」

この地方の領主だと言う男は、俺にそう問いただした。もちろん、悪意なんてなかったが、答え方を間違えると、領主の隣に控えている、ラ=イ=ザップが腰に携えた剣が、その切れ味を発揮することになるかもしれない。

「あみだくじというのは、私の住んでいた世界の、なんてことのないゲームの一つなんです。」

「げいむ?げいむとは何だ?如何わしいことではあるまいな。」

領主の言葉に耳を疑う。同じ日本語で会話しているのも、疑わしく思えてくるレヴェル。彼の頭の中に『ゲイ夢』などの文字が浮かんでないことを願う。この世界には、ゲームという概念がそもそもなかったのか?


ババー保育園で、オランダさんがすっかりアミダにハマってしまった後、遊戯の一つとして園児と一緒に遊ぶようになった。もちろん、当たりに賞金などをつけなかったのだが、オランダさんがアミダの面白さ、分岐すると戻れないことや、行き先の分からない感じを、人生に見立てたり、物語に例えたり、線を辿りながらナレーションのようなものをつけたり、すっかり子どもたちは夢中になった。

ヒン君は、裏紙と書く物があれば、どんどんとオリジナルのアミダを書いた。紙がなくなったら、壁に書き出して怒られた。怒られた後は、自分の身体の面積の多い部分にも書き出して、もっと怒られた。

ワリーちゃんは、アミダと聞くと喜んで踊るようになった。網戸とかアミダラとかアミノ酸とかを、アミダと聞き違えると、「なんだよもう!」と怒った。その度に、ババー園長が「女の子がそんな口の聞き方だめでしょ?」と諌めた。

カン君は、語尾に「アミダ」をつけるようになった。カン君が話す度にワリーちゃんは踊った。

そして、ユウ君もアミダの虜となった。本名は、キョウ=ユウ=キョウ君。アミダっぽいものは、全てアミダに見えるらしく、洗面所のタイル張りの壁とか、ハシゴとか、チェストとか、ユウ君にとっては、全てアミダだった。

そして、街道沿いの石垣も、彼にとってはアミダに見えた。しかも横アミダ。石と石の重なりで出来る線を指でなぞり、石と石との間、段差などを分岐させながら、ユウ君はどんどんと歩いていった。そして、その石垣は用水路の縁の石組みと繋がった。ユウ君は、そのまま用水路をじゃぶじゃぶと進み、やがて暗渠の奥にまで来てしまった。アミダを続けようにも、太陽の光さえ届かなくなった。

ユウ君が用水路を歩いているところを目撃していた村人がいたのが、不幸中の幸いだった。用水路の奥で、ユウ君は座り込んでいて、流れる水が容赦なく体温を奪っていた。もう少し発見が遅れたら、取り返しのつかない事態になっていたかもしれない。


「では、なぜそのような意味のない遊戯を提案したのだ?」

領主の男は言った。遊戯やゲームに興じる心、偶然や選択によって生まれる結果を楽しむ心、射幸心が希薄な世界であるとするなら、その世界の一端の領主である男は、よりなお、アミダの面白さは理解できないのかもしれない。

「意味は、意味はないのかもしれません。しかし、少なくとも子どもたちは目を輝かせて楽しんでおりました。それは、私がこの世界に転生した時には見たことのないモノでした。」

命をかけるつもりはない。だが、この場で主張すべきことは主張しておかなければならないと思った。ユウ君が命の危険に陥ったことの責任を放棄しようというつもりはない。ただ、そうなったことも含めて、アミダが人の心を虜にした事実と向き合わないといけないと思った。ライザップの剣が、目の端にある。命の危機に瀕して、俺自身も高揚しているのかもしれない。

「意味のない面白いモノが無駄なことだとは思いません。そのようなモノがあることは、文化が豊かであるとは考えられないでしょうか。私の生きた日本には、様々な娯楽がありました。その負の面も確かにあったと思います。今の日本がどうなっているかは分かりませんが、この世界なら、そのような負の部分を乗り越えることができるのじゃないか?と思うのです。」

俺は、自分の中の熱を感じながら、日本にいた頃の思いも交えて、時にダイナミックに演説をぶった。パトス。

「あいわかった。」

俺の話を聞いた後に、領主は短くそう言った。そして、ライザップと話して、私はライザップに連れられて領主の部屋を後にした。その流れで、私は牢屋に入れられることになった。

「あれ?」

罪状は、怪しげな遊戯を世界に持ち込み子どもを惑わし、その生命を危険にさらした……というものだった。禁錮30日の刑。この世界には、射幸心もないが、弁護士とか、裁判とか、そういうのもないらしい。中世っぽい、非常に中世っぽい。

ぶっちゃけて言うと、一緒にアミダをやっていたオランダさんは完全に無罪であることを理不尽に思えた。理不尽と言えば、コロナの緊急事態宣言前に、パチスロをしている時に、当日のグラフを記録しようとスマホを構えたら店員に注意されたことを思い出した。台パンしたり、2台キープして掛け持ち遊戯している奴は注意されてないのに。

理不尽だ、理不尽だよ。牢屋の中で、この俺の物語、略して俺物語がどのように展開していくのか、不安になった。展開しなくなったら、俺がこの世界で死んで夢オチとか、そういうことすら感じさせる牢屋生活だった。続く。