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【パチスロ異能小説】ジャグラーがペカった瞬間に寿命が燃え尽きた目押しできないヤツ。

その男の死に顔は、ファンキージャグラーの毒々しいとも言える紫色のゴーゴーランプに照らされていた。

ファンキージャグラーで、7を揃える前に死んだヤツは、私は知った顔だった。いつも、一心不乱にジャグラーを打っているけど、目押しが不得意なヤツだった。台選びの根拠とか、設定判別なども関係なく、ただただジャグラーを打っていた。人生の先輩ではあるはずだけど、自分は見下していた。

パチンコ屋で、パチンコのハンドルを握ったまま、天に召される人は、実は少なくないという話はネットで聞いていた。パチスロをしながら死んだという話は聞いたことはなかったが、パチンコでも、パチスロでも、そこで人生を終わらせる人はいるのだと思う。今まで、私は出くわしたことはなかったが。

ただ一つ、確実に、その他の事例と違ったであろうことは、ジャグラーに突っ伏した男を見下ろすように、筐体の上にあるドル箱や荷物を置く棚に、背中に羽を生やした大男が、小袋に入ったえびせんを食べながら、座っていたことだった。驚くべきことに、その姿は漫画デスノートに登場するリュークと完全に一致していた。


店員がインカムで連絡した後、社員と思しき男が電話をかけながら、現場にやってきた。ホール係は、まわりの客に事情を説明してまわった。パチスロ遊戯をやめた客達は、何が起きたのか周囲に集まる。しかし、リュークに気付く店員や客はいなかった。

社員は、ジャグラーに突っ伏した状態から、慎重に椅子から移動させ、男を床に横たわらせて、おそらく救急からの電話の指示に従いながら、AEDを使ったり、心臓マッサージをしたり、人工呼吸をしたりしていた。正直、「うわ、マジかよ……」という空気が流れた。

やがて、店内に放送が入り、パチンコの大当たりラウンド消化中の客を除き、全員が遊戯をとめた。店内BGMも止められた中で、海物語のラウンド中BGMが鳴り響いた。

間もなく、救急車がやってきて、男は運び出され、店内放送が入り、それぞれの客が、それぞれの遊技に戻っていった。人が死んだのに営業は続く、まあ、そんなもんだとは思う。


「くくく。俺の姿が見えるってことは、お前も、人生に絶望しているってことだな。」

リュークは、えびせんをぱりぱり食べながら、俺に話しかけてきた。

「な、なんだお前は……?」

と言いたかったが、騒音の激しいパチンコ店内と言えど、自分にしか見えてないかもしれない存在と会話をするのは、不審に思われるので、スマートフォンに「ついて来てくれ」と打ち込んで、パチンコ店を出て、家に帰ることにした。

「ほぉ。家スロか。これは、サミーのAスロット偽物語だな。なかなか、良いセンスをしている。」

「買うなら、Aタイプと決めていた。パチスロの面白さが凝縮されているからな。」

自室に入ると、リュークは、俺の家スロに触れてきた。パチンコ店にいたわけだが、パチスロが大好きなヤツらしい。さらに聞いてみると、死神らしく、名前はリュークじゃなくて、スロッカスと言うらしい。

今日死んだ男は、スロッカスが異能を授けられていたらしい。ジャグラーでペカらせる能力、ビッグボーナスを引ける能力だったらしく、その対価として支払うのは、1日分の寿命であり、スロッカス曰く「人間の寿命は、河井克行議員も、河合杏里議員も等しく1日6000円だ」ということらしい。人選に偏りを感じる。

目押しできないヤツがよく打っていたのは、ファンキージャグラーだった。どうせペカらせて、ビッグボーナスをとるなら、325枚の払い出しがある、アイムジャグラーEXシリーズの方が良かったのじゃないか?と疑問を呈した。

「くくく。そんなことは知らないで、パチスロやってたぜアイツは。56枚交換も知らなかったんじゃねえかな。ドル箱交換してから、現金投資してた時もあったな。くくく。人間って、おもしろっ!」

リュークに台詞を寄せてきている感じあるな……と思いつつ、パチスロ好きなら、それくらい教えてやれよ……と、心の中で反感を覚えた。


目押しできないヤツ。名前は、ソノベと言ったらしい。もしかしたら、ニュースか、新聞かで、名前を聞くようになるかもしれない。自殺でもなく、事件性のないことだから、マスコミによる報道はないかもしれない。

ソノベは、人生に絶望していたらしい。いや、絶望という語彙は、彼の中にはなかったかもしれないが、流れ行く日々と、自分の未来に価値を見出してなかったらしい。俺のように。ソノベは、スロッカスの提案に、すぐに乗ったらしい。寿命なんてどうでもいい、ペカるなら、それでいい。

スロッカスから、ソノベの最期の暮らしぶりを聞いた。なんらかの仕事を退職した後は(スロッカスは興味がないから、働いていた職種などは聞かなかったらしい)、年金で生活しながら、酒を飲み、コンビニの惣菜などを買い、金がある時はパチスロをして、勝ったり、負けたりしながら、生きていたらしい。もちろん独身で、両親も他界していて、兄弟や親戚とは連絡をとってなかったらしい。

スロッカスから異能を授かった後は、パチスロ好きに拍車がかかり、ジャグラーを中心に乱れ打っていたらしい。ソノベには、パチスロの6段階の設定という概念はなかったらしく、流れが良い時(ソノベはそのように認識していた)は、持ちメダルで遊戯して、運よく設定がツモれていたり、あるいは、上手いことジャグ連をした時は、ほくほくとドル箱を二箱とか交換して帰ったらしい。

異能を使う時は、主に運悪く(?)負けこんだ時だった。1000枚、つまり2万円飲み込まれた時は、異能を4、5回くらい発動させて、プラス収支にして、帰ったらしい。一応、スロッカスの良心か、1G連を連続させまくって、軍艦マーチを連発させると、さすがに店から怪しまれるから、1回の異能発動で、ブドウやリプレイなどで調整して、不自然にならないようには、ジャグ連を演出していたらしい。

「1回、軍艦マーチを10連続でかけようとした時は、流石に止めに入ったぜ。」

乱暴な異能の使い方であったが、ソノベは基本的にパチスロで負けることはなく、浮いたお金で酒を飲み、高い目の惣菜を買ったり、時には居酒屋に行ったりもしていたらしい。元来、人と関わることが苦手な性格だったらしく、人生の最期の最高の贅沢というのが、居酒屋というのは、悲しくなる。例えば、駅前商店街にある場末のスナックに行くようなこともなかったらしい。いつも、ヨレヨレの服を着て、帽子をかぶっていた。身なりのことは気にしてないようで、気にしていたのかもしれない。

スロカッカスが言うには、1G連をして、軍艦マーチを流している時に、周囲から向けられる羨望の眼差しに快感を覚えていたらしい。これは、後から聞いた話だが、常連達からは「軍艦おじさん」と呼ばれていたらしい。


生前のソノベのパチスロのことを思い出してみた。打ち方であるけど、通常時、チェリーは狙ってなかった。いわゆる適当押しではあるが、チェリーをこぼすと2枚損する。ファンキージャグラーのビッグボーナスは、312枚。約6000円。寿命1日。2枚という枚数は、1日×2/312の命の枚数であったはずだ。

ソノベは、生涯にどれくらいのチェリーをこぼしたのか。7を揃える前に、何G余計に回したのだろうか。異能を発動させて、何日の寿命を、このスロッカスに捧げたのだろうか。おそらく、私の想像もできないくらいに、何も計算してなかったのじゃないかと思う。

ソノベが異能を持っていたことは、彼の生前には知るよしはなかったが、筐体をばしばし叩いたり、ゴーゴーランプに不繊維のおしぼりをかけていた裏に、命の、寿命のやりとりがあったとは知らなかったが、命を燃やしているからこそ、鬼気迫るものがあったのかもしれない。

ソノベが最期に揃えることのできなかったビッグボーナス。ファンキージャグラーのゴーゴーランプは、台の電源がオフにされ、消えた。おそらく、翌日からはしばらく調整中のラミネート加工された札が貼られるだろう。事件性はないとは言え、人が死んだ台を、そのまま開放されることはないだろう。再び開放された時は、リセットされて、そのボーナスフラグは消える。

もしも、自分が同じ能力を得たとしたら、どのように使うだろうか。自分の1日を6000円で売り飛ばすことに、どう感じるだろうか。


「くくく。それで、お前はどんな異能がほしい?」

目の前で、Aスロット偽物語を遊戯しながら、スロッカスは俺に聞いてきた。ソノベのような異能の使い方をするほどには、まだ自分の人生に絶望はしてないらしい。

ボーナス中の白7・スイカ・強怪異図柄のビタ押しを失敗しまくっている死神が相手なら、付け入る隙もあるかもしれない。全知全能とは言い難い。

「ジャグラーをペカらせること以外でもいいのか?」

俺の問いかけに、スロッカスは目を輝かせて頷いた。さて、どんな能力にしようか。できれば減らす寿命は最小限で、金額的な期待値が高く、このスロッカスを騙し切る能力であるならば、人生を大きく変える転機となりうる。

ビッグボーナス中のBGM「ambivalent world」が、俺の部屋に鳴り響いた。そして、死神はまたもビタ押しをミスった。


関連動画。

www.youtube.com

余談。

作中に出てくる家スロは、私が持ってるヤツと完全に一致します。