その日、俺は疲れていた。会社のサービス残業、人が仕事をしているのに時間つぶしで雑談をするおっさん達。口から出てくるのは、酒、ギャンブル、女だ。早くこの世界から抜け出したい。
家に帰り、自分を待ってくれていた妻に、告白をする。今思えば、疲れていたのかも知れない。
「ブログで、PVで飯を食っていくよ。」
人気ブログとはいえないが、月に1万PVくらいはあった。自信と手ごたえがあった。
「は?ミュージシャン?」
妻は、とぼけた声でそう聞き返した。説明が悪かったのかも知れない。ブログで、つまりマネタイズされたPVで金を稼ぐというのは、あまり一般的なモノじゃあないだろう。もう1度言う。
「ブログで、飯を食って行きたいと思うんだ。」
「何?ミュージシャンになるの?」
「いや、そうじゃなくて、ブログからPVを出して、それで…。」
「何?ニコニコ動画とかで歌い手ってのをやるってこと?」
「いや、そうじゃなくて、ブログで収入を生み出したいんだ。」
「は?」
それから、ブログのこと、アフリエイトのこと、ツイッターやバズのこと、色々と説明した。妻は終始黙って聞いていたが、やはり、荒唐無稽に思えたのか、表情は暗かった。
「これからはさ、仕事をやめたら、1日10記事くらい書いて、そうするとPVも上がると思うんだよね。そうすれば、ずっと家の中で働いていられる。」
「片腹痛い。」
「は?」
「あなたのブログって今1万PVでしょ?月に何円稼げているわけ?1000PV100円で考えても、1000円くらいでしょ?それを例えば、10万円にするのにどれだけの時間があって、何をどういう風に書いて増えてくの?ちょっと未知数すぎるのじゃない?或いは、私がはてなブックマークを使って、身内ブクマならぬ嫁ブクマでもしようか?でも、それって、この先何年続くの?だいたい本当にブログが好きな人は働きながらでも毎日、日記でも、ライフログでもなんでも書いてるの。先ずは、働きながら毎日何か書けるようになってからにしなさい。そして、その状態で月10万円稼げるようになったら、もう一度相談に乗ろう。そのためにあなたがすることは、だらだらインターネットをするのじゃあなくて、毎日、アクセス解析を確認して、検索訪問のトレンドを知ること、そしてブログの読者数やフォロワー数を増やす努力をすること。ぬるい、とてもぬるい。ご飯食べて、風呂に入って、疲れをとって、明日のために就寝しろ。私は、もう寝る。」
…きっと、この嫁と結婚できて僕は幸せなんだと思う。
後記。
書いてて、胸が痛くなりました。