大学院卒ニート、しやわせになりたい。

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【パチスロ異能小説】駆け抜けパパ~高給取りサラリーマンがパチンコ沼にハマった理由。

パチンコで1日6000円勝てるけど、寿命が1日縮むだって?バカバカしい。そんな力にすがろうってのは、よっぽどの貧乏人か、人生に絶望したヤツだ。俺は高給取り。年収はボーナス込みで一千万円を越えているし、あえて日給換算するなら三万円だ。6000円のために、寿命を1日失うなんてバカバカしい。命を売るほどに、金に困っている訳じゃない。命を売るなんてのは、昭和の発想だ。

目の前に現れた背中に翼を持った大男、自称死神のスロッカスと名乗った男に、「バカバカしい」言い放った。そうすると大男は「くくく。バカバカしいの」と意味不明なことを言ってきた。

後から知ったことだが、この男は漫画デスノートに登場するというリュークという死神に、容姿が完全に一致しているらしい。漫画なんてバカの読むものだ。少なくとも、中学になれば卒業するものだと親に教育された私は、デスノートなる漫画が存在することなどを、50を越えるまで知らなかった。

「まあ、気が変わったら、イカフライを窓際に捧げるんだな。駄菓子のイカフライだぞ。おかずのイカフライを捧げるんじゃないぞ。」

スロッカスと名乗った男は、窓際から飛び立って行った。もしかしたら、意味不明な夢を見たのじゃないか?と思ったのだが、スロッカスと話したことは、どうやら現実らしい。ただ、大切な寿命をはした金で売り飛ばす気持ちにはなれず、窓際に駄菓子のイカフライ?を置くこともないと思っていたが、一週間も経たないうちに、近所の、パチンコ屋の隣にある、スーパーマーケットで駄菓子を探すことになった。


「覚悟をしてください。ご家族とも相談しておいてください。」

健康診断の結果で、すべての項目が「要再検査」だったので、隣の市の総合病院に来た。医者の話した言葉は、死神スロッカスの存在、話した言葉よりも、非現実的に思えた。足元が、バラバラと崩れていくような感覚。会社、家庭、給料、三万円……スロッカスと話した内容が、頭の中でグルグルと駆け巡った。

家族とは、相談できなかった。私は、妻や息子のことを見下している。彼女らもそれを知っていると思う。だから、病院で医者が話したことを打ち明けた時、情けない話だが、相手に安堵の表情が浮かぶのじゃないか?と思うと、怖かったからだ。

スーパーで買ってきたイカフライを袋から出し、皿にのせて窓際に置いた。すると、スロッカスはすぐに来た。はやすぎ。

「くくく。気が変わったのか?さあ、どんな異能で、どんな風に稼ぎたい?」

「いや、金が欲しいんじゃない。お前が死神なら、寿命を延ばす、そうじゃなくても、健康を取り戻すような能力はないのか?」

「ないな。」

目の前が真っ暗になった。最後の最後にすがろうとしたモノも、私の命を助けてはくれないようだ。

「俺は人間に異能を授け、寿命を金で買い取る。1日6000円。みんな平等だ。稲田朋美議員であってもな。」

人選に偏りを感じる。

「だが、金で寿命は売ってないんだ。残念だったな。」

もしも1日を6000円で買い取れるなら、私は可能な限りの日数を買い取っただろう。年収1000万円を越えても、死んでしまっては意味がない……と思うと同時に、自分の乾いた日常を思い浮かべると、長生きしてもしかたないか……という気持ちもわいてきて、悲しくなった。目から涙を流したのは、何年ぶりであろうか。

「ふむ。お前に異能は必要ないようだな。寿命をやることはできんが、イカフライ分くらいの助言はしてやろう。」

イカフライをバリバリ食べながら、スロッカスは言う。涙を拭い、またしても、その言葉にすがる。スロッカスに向けた言葉は出てこなかったが、その表情で何かが伝わったのかもしれない。

「くくく。どうやら、お前はホールの呪いにかかっているようだな。」

……呪いだと?

「お前は、パチンコ、パチスロをやる人間のことを見下しているだろう。くくく。しかも、家族や会社の元同僚ときたか。そのことが、ホールの呪いの呼び水となっているようだ。」

スロッカスが語るには……ホールとは、パチンコ・ホールのことである。戦前にパチンコの原型となる遊戯機が登場し、戦中に規制が厳しくなる中、戦後、復興の中で「正村ゲージ」なる遊技機が登場し、日本のパチンコ文化が本格的に動き出した。そして、今にいたるまで、様々な感情が入り混じり発展してきたが、国籍差別であるとか、遊戯者への侮蔑的感情・表現、自粛警察など、負の感情は積み重なり、それは決して拭い去ることのできない呪いとして、ホールに渦巻いている。昨今は、閉店するパチンコ店も多いが、店がなくなっても、呪いが完全に消え去るまで3700年の時間が必要らしい。

その呪いが、私に降りかかり、寿命を蝕んでいる。

「どうして、妻や息子がパチンコ沼に沈みかけた時に、助けてやらなかったんだ?」

「た、助けた。彼女らが失った金は不問にした。借金する前に止めたことは、助けたってことじゃないか。」

「いーや、違うな。お前は金を出しただけだ。心は救ってない。それは、助けたとは言わない。」

「だったら、それはパチンコが悪ってことじゃないのか?」

「くくく。心の弱さを、パチンコに押し付けるな。」

私は、言葉を返せなかった。それでも、パチンコは悪だと思っているが、私が妻と息子の心を救わなかったのは、事実なのかもしれない。

「あと、ついでに言っておくと、お前の会社の部下で、外回り中にパチンコしたって理由で叱責したヤツがいただろ?アイツがやったのは、パチンコじゃなくて、パチスロだ。まあ、サボりはサボりだし、パチンコとパチスロの違いなんて、お前にはどうでも良いことかもしれないが、会社を辞めるまで、追い込む必要はなかったのじゃないか?くくく。」

私は、パチンコとパチスロをする人間を見下していた。叱責の結果、一人の部下が退職したのも事実だ。その部下も、妻も、息子のことも、見下していた。妻は、私の知らない間にパチンコにハマっており、家のリフォームのために積み立てておいた貯金に手をつけた。借金するまでの大事に至らなかったが、将来的に私の両親との同居も考えた、大切なリフォーム資金だった。

息子は、大学の入学金を溶かした。浪人中にハマっていたらしく、1円パチンコなるものを打っていたらしいが、お年玉の貯金を全て失い、それを取り返すために、2年かかって合格した大学の入学金を4円パチンコで溶かしきった。社会勉強のために、振り込み手続きを本人にさせたのが、あだとなった。叱責こそしたが、入学金は私が振り込み、大学にも入学させた。留年こそしているが、今も大学に通っている。

私は、パチンコをする人間を見下していた。だって、バカらしいじゃないか。使ってはいけない金を使い込み、勤務中にパチンコ……じゃなくて、パチスロをする。バカだ。大バカだ。金が稼げるわけでもなく、時間も金も浪費している。見下されて当然であり、見下している私は年収1000万円を越えている、そして、今、ホールの呪いを受け、余命幾ばくもない。

「お前の寿命を延ばすことはできんが、ホールの呪いを解く方法なら知っている。」

頭の中に、漆黒の感情が、ドロドロと泥のように渦巻く中で、死神の言葉が、一筋の光のように思えた。

「嫁さんと息子と話すんだな。そして、パチンコをしろ。年に1000万稼げるお前なら、パチンコでも負けることはないだろう。さらばだ。」

スロッカスは飛び立っていった。しばらく放心して、部屋を出て、テレビで情報バラエティを見ていた妻に話しかけた。健康診断の再検査に関しては触れないで、なんともない会話を続けた。そして、「唐突に思うかもしれないが」と、前フリをした上で、彼女がパチンコ沼にハマっていた頃の話をした。彼女は、バツの悪そうな顔をしていたが、私が謝罪の言葉を伝えると、驚いた顔をした。こんな表情は、もう何年も見ていない。

「信じて貰えるかどうか分からないが、と、得意先とパチンコの話になってね。もしよかったらだけど、パチンコを教えてくれないか?」

妻の表情が輝いた。こんな顔も、何年も見ていない。近所にあるユニバースⅢに夫婦で遊びに行った。スロッカスは「負けることはない」と言っていたが、下調べをしていると、その理由は分かった。パチンコとは、釘であるらしい。店内観察をしてみると、一番勝ちやすいのは、1円パチンコの遊パチ海物語のバラエティーコーナーだと分かる。老人達が多く座っていて、パチンココーナーで一番稼働が多かった。一度、パチンコで痛い目を見ている妻は、4円パチンコに恐怖感を持っているらしく、「1パチでもいいかな?」という私の提案を受け入れてくれた。

府外の大学に通っている息子とも連絡をとった。世間話をして、大学入学前のことを謝罪した。その話の流れで知ったことだが、息子は、大学に通いながら個人チャンネルではあるが、有名なパチスロユーチューバーとなっていた。私には分からないことだが、ごみくずニートさん形式の動画らしい。

私は、パチスロには詳しくないが、チャンネルを確認してみると、「万枚達成!」などの文字が並び、いわゆる神動画を量産しているらしい。「好きなことは続けなさい、ちゃんと大学を卒業するんだぞ」と、電話で伝えた。スロッカスの笑い声が聞こえた気がして、電話を切る前に窓際を確認したが、気のせいだったようだ。


休日になると、夫婦で連れ立ってユニバースⅢで1円パチンコの海物語を打った。最初のうちは、現金投資が続いていたが、しばらくしたら貯玉再プレイで遊戯するようになった。「保留が3になったり、ステージに玉が乗ると、止めた方がいいよ」など、夫婦での会話も増えた。お金に困っている訳ではないので、特殊景品に交換せず、二人してモリモリと貯玉が増えていった。

ホール内を周回すると、4パチで遊タイム付きパチンコ機種が天井前で放置されていたので、そういう期待値も拾い続けた。「遊タイム」とは、最近、パチンコに導入された天井機能である。大当たり間のハマりが規定回数を越えると、機種ごとの恩恵が発動する。

スロッカスの言葉の意味が分かった。これは、勝てる。

貯玉で遊んで、貯玉して、時々、一般景品からスナック菓子や、冷凍食品、レトルトカレーなどを交換して、その日の晩ごはんとした。インターネット掲示板の爆サイを確認すると、「貯玉せこせこ食料1パチ夫婦」という悪口があった。私達の夫婦のことだろう。今日もまた、ホールの呪いは積み重なっていく。

私が、勤務時間中のパチスロを叱責したことにより、退社した社員にもなんとか連絡をとりつけた。会社を辞めた後、趣味のパチスロを仕事にしようと、私は知らない分野だが、108GAMESというYou Tubeチャンネルの演者となり、今はマット岩石魔神と名乗り、神動画を連発しているらしい。彼は、私の叱責が人生の転機となったと話してくれたが、謝罪の言葉を伝えておいた。私の住んでいる地域では、実践来店はできないそうだが、近くの府県での来店があった時は、夫婦で遊びに行こうと思う。


健康診断の再検査の再検査に行くと、「要再検査」の数は減っていた。完全な健康体になった訳ではないが、数値の経過などを見て、医者も「油断をしてはいけないが、安心してよいでしょう」と言ってくれた。病院を出たら、妻と一緒にユニバースⅢへ行く。パチンコを覚えて良かったことは、妻と話す機会が増えたことと、土日が楽しみになったことだ。パチンコの後のレトルトカレーも美味しい。

私の中の、ホールの呪いが全て除去されたかは分からないが、病院から出て、広がる田舎風景には、光が満ちていた。今日の釘はどんな感じだろうか。開いていると、ありがたい。

しかし、海物語のチャンスタイムも、確変も全然連チャンしないな。私の知らない異能が働いているんじゃないだろうか、と思えるほどに。隣にいる妻から、「あら?また駆け抜けたの?」とイジられる。そんな会話も楽しいのだが、そろそろ連チャンしてほしい。

余談的補足。

本編の行間に挟まっている部分のネタバレになることを、以下に書いているので、最初に読んだ時に、その行間が分からなかった人は、もう一度読んでみて下さい。



今回は、主人公がパチスロの異能を得ておりませんが、一人パチスロ異能者が登場してます。他にもう一人、異能者を登場させようかと思いましたが、その部分は曖昧にしました。異能者かもしれません。

あと、最後の海物語の駆け抜けのくだりは、小説タイトルのわりには「駆け抜け」の話が出てこなかったので、最後のくだりを足しました。この部分を書かなくても、私はタイトルが「駆け抜けパパ」であることに、書いた本人としての感情的整合性はとれているのですが、より小説の内容がタイトルとリンクするように足しました。

パチンコのチャンスタイムが大当たりゼロで終わるとか、AT・ARTのパチスロでG数上乗せやボーナスがなく終わることを、「駆け抜け」と言います。