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宇宙落語草案・竿を借りて帰投せよ!俺式ゼログラビティ。

宇宙飛行士は夢のある職業なんて言いますが、確かに今まで付き合った女性にも「少年っぽい」って褒め言葉なのか、けなされているのかよく分からないことを言われたものですよ。夜の秋の大運動会。まあ、ただ、宇宙飛行士ってのは、ここでは男子限定とさせて頂きますが、あえて「男子」という言葉を使わせて貰いますが、少年っていうか、まあ、中学生なんですよね。

宇宙空間での、船外作業ってのは、まあ、当然、丘とも船とも隔絶された時間、空間でして、しかもクルーと作業員だけの通信で会話するわけでして、とうぜん、ちょっとした冗談なんてのも飛び交う訳なんですよ。まあ、中学生ってのは、そのあたりなんですが、まあ、いわゆる、引かれるかもしれないですが、シモネタってヤツですね。修学旅行の夜みたいな雰囲気です。

それが、あんな悲劇を生み出すなんて思ってませんでした。


私の当時の仕事ってのは、宇宙飛行士って言えばかっこがよくて、丘に降りた時は、そりゃモテたものですよ。第八次ベビーブーム。何しろ、人類の開拓地ってのは、宇宙にしかなくなった訳で、そりゃフロンティア精神バリバリでした。宇宙男女雇用均等法ってのもあったんですが、私のセクションは、ほとんど男ばっかりでしたね。もう、「セクション」って言葉だけで、15分くらいはケタケタ笑うんですよ。

あれは、中学1年生くらいの時でしたか。あえて、私の中学時代の話をしますが、簡単な英単語を覚えた時に、やれ、ソックスだファックスだ、エスエフエックスだ、スターフォックスだ、ケタケタしているもんでしたよ。顧問の先生とかが、「ファックスのある家は、連絡網はファックスするからな」とか言うと、もう「顧問」って時点でダメなんですが、「先生、ファクシミリって言って下さい!」ってな感じで、ケタケタしてるんですね。

まあ、宇宙飛行士ってのも、私のセクションもそんな感じだったんですが、宇宙や、宇宙船回りの専門用語って、そういう感じなのが多いのですね。やれ、母船とドッキングだとか。私の同僚の鎌田堀太郎ってのは「母船」がツボってたんですが、そのあたりは詳しく聞かなかったんですが、まあ、色々あるんですよ。インジェクトだとか、スワップとか、ワイプとか、まあ、色々ね。私の仕事は、居住区に近い軌道でのデブリ回収だったんですが、まあ、仕事の終わりに「そろそろ、帰投するぞ。母船とドッキングするぞ。」とか、アクセントつけて言われると、拾う作業の時も、母船で指示を出している時も、ケタケタと笑って仕事を終えていたわけですよ。

それが、あんな悲劇を生み出すなんて思ってませんでした。


ある日のことですが、私はクルーをやっていたんですが、ちょっとした事故が起きたんですね。本当のちょっとしたことなんですが、一応、安全の意味で「今日は、早いことドッキングしたいな」とか言ってたんですが、作業員は、鎌田はケタケタと笑ってるんですよ。だから、私も大丈夫かなって思ってたんですが、事故ってのは、小さな事故、不注意が積み重なるというか、ちょっと危険かなと思いだしたんですよ。その日のデブリ濃度が濃かったこともあるんですが、「今日は、インジェクターが調子が悪そうだ。早いこと出した方がいいな」と指示を出すと、やはり鎌田はケタケタと。だから、私も大丈夫かなって思ってたんですが、やっぱり状況が芳しくない。「今日は、ちょっとここらでスワップした方がいいかもしれん」、鎌田がケタケタ。今思えば、横文字を使わないで日本語で指示を出せば良かったのかも知れませんが、ケタケタ笑ってくれると私も楽しいもので、どんどんと注意力が散漫になっていったんですね。散漫ってのも、ちょっとやばい感じですね。

そうこうしていると、いよいよもうレッドアラート。こりゃ、鎌田をすぐ退避させないといよいよ危険。居住区も巻き込んだ大事故になりかねない。タイミングが悪かったら、ケスラーシンドロームにもなりかねない。だけど、ケタケタと笑っている。鎌田は、自分のの装備の異変にも気付いてなかったんですね。これはいけないと思い、私はマイクに向かって力強く叫びました。


「竿を借りて帰投せよ!」


竿ってのは、デブリ回収員が使う装備の一つなんですが、小型宇宙船艇を、なんというか係留しておく装置なんですが、それが故障していたんですね。幸い近くに同じ作業をしている別班がいたので、竿さえ借りることができれば、危険を回避できたんです。ようやく事態を把握してきたのか、沈黙が返ってきました。そこで、私も確認の意味で力強く言ったんですよ。


「いいか!?竿を借りて帰投せよ!竿を借りて帰投せよ!」


ほんの刹那の間をおいて、帰ってきた言葉ってのが……。


「ちょwwおまっww竿をww借りてww帰投ってどんだけww。」


だったんですね。結果、鎌田はデブリ群に撃ちぬかれ、小型宇宙船艇も破壊され、そのデブリは爆散しました。ケスラーシンドロームに至らなかったことが不幸中の幸いでしたが、鎌田の遺体は、その宙域を永遠と彷徨うこととなってしまいました。

野菜も食べないで、歯も磨かないで、中学生みたいなヤツだったんですが、宇宙に居続けることになったのは、本望(ほんもう)だったのかも知れません。私も謹慎処分になりましたが、丘には降りないで仕事を続けています。これで話はおしまいです。え?落ちですか?ありませんよ。これは、誰も落ちなかった話ですからね。