大学院卒ニート、しやわせになりたい。

働かないで、アフィリエイトとか、ユーチューバーで幸せになりたいです。

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小説:瑞穂の国小学校建設予定地跡地をクラウドファンディングで穴を掘ってみた近未来(フィクションです)。

掘ったら分かることもあるはずだけど、誰も掘らなかったみたいだし、だったら、僕が掘ってみようかと思った。

9.9メートルを越えて、土を払いのける。

土を除ける度に、そこにある「何か」、あるいは「何もない事実」が、その存在感を増していく感じがする。うやむやのままに解明されなかった事実、今解明しても意味のない事実、そんな、抽象的な何かを感じたのか、手のひらに汗がにじむ。

何かが埋まっている。何も埋まっていない。あと何回か、手を動かせば、白黒がハッキリする。まるで意味を失った白と黒がハッキリとする。

僕が育った街に、アッキード事件なるものが、かつてあった。

僕が生まれる前。僕のお父さんが子供だった頃。僕の住む街では、国と大阪府を巻き込んだ事件があった。事件。政変。政治劇。色々な言葉で言い表されたようだが、多くの人を巻き込み、多くの人が関与した事件だったが、結局、国際情勢の変化や、もっともっと大きな問題が日本や隣国で起きて、数名の自殺者が出た後に、事件は収束したそうだ。内閣支持率は数ポイント下がった程度だけど、僕の祖父に言わせると、暗黒の時代の始まりだったらしい。

祖父は、おじいちゃんは大袈裟な人だ。アッキード事件当初は、ユーチューバーとして(当時は、まだYouTubeに人間が出演していたらしい)政治的メッセージを発信していたらしいが、国家権力の干渉があったらしく、アカウントが停止されたそうだ。そのせいで、おじいちゃんの【熱】が少し冷めた頃、事件も収束に向かうこととなった。

何にしろ、数名が逮捕され、数名が議員辞職し、数名が自ら命を断ったことで、事件は収束したが、そもそもの疑惑は残ったままになり、そこから数十年の月日が流れた。

あの土地にゴミは本当に埋まっていたのだろうか?

時の首相夫人が100万円の寄付をしたか否かが、時の首相の侮辱にあたる(どういうことだろう?)など、色々な問題に派生し、証人喚問という(当時はそう呼んだらしい)国会人民裁判が開催され、色々な疑惑が更に生まれた。当時の政権は、総理大臣の名誉を守るために、偽証罪での告発などを行ったが、結局は、有機的に絡み合った様々な疑惑により、裁かれるべき者は裁かれたが、多くの疑惑が残った。

まだ、解明されていない疑惑が数々あるらしいが、当時の関係者の多くが既に他界しており、墓まで持ち込まれた謎も多い。アッキード以前と以後では、公務員の守秘義務に関する制度が大きく変わったが、僕が生まれる前のことだから、よくしらない。

色々な謎が残ったけど、もう、政治家の人、野党の人も興味を持っていない。与党の人がどうかは知らない。終わった案件だからだ。ただ、僕は、単純な疑問として、そもそもの土地評価額の算定基準などに興味を持った。これは、僕が人間環境学部の学生であるからの興味でもある。一般教養の「愛国」の中の「郷土の歴史」の単位が欲しいってのもあるけど。

「土地評価額の算定基準」などと、文字にしてみると、堅苦しい印象があるかもしれないけど、ただただ単純に、本当に埋まっていたのかな?とか、埋まっていたら何が埋まっていたのかな?ということだった。

良い田んぼができそうな土地ですね。

様々な事件が起きた土地。公園の隣の土地、小学校が開校予定だった土地は長らく手付かずだった。すでに建築が進み、内装などを残し完成間際だった真っ赤な校舎は最終的に取り壊されることになったのだが、その学校を運営しようとしていた元理事長に共鳴する人々が、校舎建築に反対して、泊まり込み活動をしたらしい。

もともとは、色々な問題、思想信条などに関する問題も関わった学校であり、その校舎となる建物だったのだけど、弔い合戦とは違うかもしれないけど、思想などではなく、人間としての元理事長、あるいは、当たり前に尊重されるべき氏の人権を守れという考えに共鳴した人々だったのかもしれない。

償わなければならない罪はあったが、同時に人として守られるべきモノもあった。小学校開校は頓挫し、瑞穂の国という名前の小学校が開校されることはなかったのだが、大元の問題が終結してから、残り火のような、だけど激しい抵抗が行われたらしい。

一連のアッキード事件は、国民の注目度は高かった。取り壊される校舎での泊まり込みという攻防戦は、煮えきらなかった思いが、そこに集結するかのように支持者も増えた。しかし、最終的に、寒い冬の到来の前に強制執行により泊まり込んでいた人々は排除され、校舎は取り壊された。2017年のことだった。

まるで諸悪の根源のように思われていた真っ赤な校舎が、最後は、この一連の事件を歴史に残さんとしようとする抵抗の象徴のようになった。そして、その校舎は潰された。

深さ9.9メートルの穴を掘るクラウドファンディングを開始しました。

校舎が取り壊され、更地に戻り、国有地と戻って、最終的に、当初から希望されていた公園となった。野球やサッカーができるグラウンドや遊具が並んでいる様子は、そこに開校したかもしれない小学校に重なる。

僕が興味を持ったのは、前述した通り、この土地に本当にゴミが埋まっているのか?ということだ。当時の国会中継を見ていて印象的だったのは、ゴミの混入率などの計算において、9.9メートル地点にゴミが存在するのか?ということだ。

野党の、どこか落語家のような喋り方をする議員さんが言うには、9.9メートル地点は、もともとの手付かずの地層であり、ゴミが存在しないことは、専門家、地質学者の間では「常識」という話だった。国の検査機関が出した結果だから、信頼性はありそうだけど、本当にそうだろうか?と思った。なぜなら、全ての事件は終結したが、本当にゴミが埋まっていたのかどうかは、結局は未解明のままだったからだ。

アッキード事件は、とられるべき責任がとられ、何人かの自殺者が出て終結した。土地の評価額に関しても追求があり、財務省に限らず、省庁の記録保持規則が見直され、陳情や交渉の可視化などが進んだが、本当に9.9メートルにゴミがあったのか?という疑惑が晴らされることはなかった。

もう、晴らす必要がなかった。本当に9.9メートルからゴミが出たら、また局面が変わったかもしれないが、当時の与党、財務省が追加調査をしなかったのは、それは「ゴミはない」と暗黙のうちに了解したためだったのかもしれない。

ただ、単純に地面の下9.9メートルに、どんな土があるのか知りたかったかもしれない。

別に、当時の与党や役人の肩を持つわけでもなく、野党や、元理事長、校舎に立て籠もった人に共鳴するわけではないけど、ただ単純な興味として、当時は誰も掘らなかった土地を掘ってみたら面白いのじゃないか?と思った。

大学の研究課題としてやってみるのも面白いかもしれない。単位にもなるし。父親に話してみると、興味はなさそうだったが、元ユーチューバー(笑)の祖父に話を持ちかけてみると、たいそう興味を持ってくれた。目がマンガのように輝いた。人の目って本当に輝くんだな……と思った。

祖父は目を輝かせながら、様々なアイディアを提供してくれた。単純に「穴を掘ってみたい」と話しただけなのだけど、例えば重機であるとか、人手であるとか、費用であるとかを提案してくれた。その結果、クラウドファンディングなるウェブサービスを利用することとなった。

目標金額は1億3400万円。あまりにも大きすぎる目標額ではあったが、もしも、満額に達した場合は、テレビ中継なども行おうと夢は広がった。しかし、実際に集まったのは、227万円だった。重機などをレンタルするには十分な金額ではあった。

9.9メートルに近づくと土は黒く、黒くなった。

その日、僕と祖父と、大学の友達と、ほんの少しの報道関係者が集まり、クラウドファンディングで集めた資金を元にした【穴掘り】を開始した。ちなみに、報道関係者と言っても、インターネットメディアの人だ。まとめブログじゃあない。

本当は祖父が重機を運転する計画だったけど、話を詰めている段階で無免許だと分かり、市内の建設会社Fujiwara工業の社長さんが運転をしてくれることとなった。社長さんも、この土地には何らかの思いがあるようだったけど、詳しくは聞かなかった。ただ、そんな気がした。目の奥に鈍い光があった。

掘った穴が崩壊しないように細心の注意を払いながら、穴は堀り広げられた。ショベルカーのようなものを想像していたが、地中に筒のようなものを埋めていくような感じだった。深さは9.9メートルに近づいたところで、ハシゴがかけられた。僕は、そのハシゴから転げ落ちないように命綱をつけて、降りていった。

穴の底におりて、その深さは、見上げた穴の小ささから感じられた。この先に何かが埋まっているかもしれないし、企画としての醍醐味というか、最後は人の手で掘るようにした。祖父は、近くでカメラを回している。

9.9メートルを越えて、土を払いのける。

穴の底の土は黒かった。暗さもあるが、一般的な土、茶色でイメージされるそれとは違い、黒かった。墨と硯のような黒さと言えるかもしれない。それは、そういう地層であるのか、あるいは、昔の植物が炭化しているのか?沼の底に沈んだ藻や苔なのか、そういう専門的なことは分からないが、ただ黒かった。

ショベルなども使って、そこの土を何回かザクザクと掘った時に、スカッと違う手ごたえを感じた。急に土の中に落ち葉の塊が現れたような、そんな手ごたえだった。

そこには、たしかに何かが埋まっていた。それは、ゴミではないが、もしかしたらゴミなのかもしれないが、土地の評価額が下げられるようなゴミではなくて、もっともっと抽象的な何か、もしかしたら、一連の事件の間に、この因縁の地に、様々な思念が蓄積し、周囲の土を黒く染め、沈殿していったような、そういう何かだ。

僕も祖父も全くの正常だった。本当です。本当に正常だった。ただ、そのように感じられたし、穴の底の土は、まるで人間の体が積み重なったような、もしくは、巨木の根のような、そういう複雑さを持っていた。柔らかい土を払いのけると、硬い部分が、まるで血管のように浮かび上がった。その血管は、だいたい人の腕くらいの太さがある。

もしかしたら、専門家が見れば、そういう地層だという見解なのかもしれないが、僕と祖父は、その黒い土から得体の知れない何かを感じて、ただ夢中でショベルを動かすしかなかった。

穴を掘ったのは広大な敷地のうちの一箇所である。

僕達のプロジェクトの結果、掘った穴の底からは評価額を下げるようなゴミは発見されなかったのだが、ネットメディアに小さく報じられた記事が、Hatenaブックマークで拡散し、様々な意見が飛び交った。

結果として、国土交通大臣が記者会見でコメントすることになった。掘った穴はあくまで広大な敷地のうちの一箇所であり、当時の土地評価額に間違いはなかった……という認識を示した。

当時の財務省の対応が正しかったか否かは、あの公園を全てにおいて9.9メートル掘り下げないといけないらしいが、それは現実的ではないらしい。

これは全くの余談ではあるが、穴の底にはゴミはなかったが、なんか不思議なモノはあった。

それは、ドラム缶だった。僕が掘り当てたのは、ほんの一部でドラム缶の上面だった。周囲の土を除けてみると、それは確かに円形で、その縁を少し掘ると円筒形であることが分かった。上面は青色に塗装され、円柱の横の部分は黄色く厚く塗られていた。

もしかしたら、これは秘密の埋蔵金のようなものか?と期待したが、穴の底に降りてきた社長さんが、「もうやめた方がいい」と言った。最初は、それを断ったが話を続けている間に、社長さんは泣き出し、最後には土下座したので、やめることにした。

穴の底にはゴミはなかった。ただ、何かが埋まっていた。祖父を見ると、その目はマンガのように輝いていた。