―離婚を考えられた理由をお話いただけますか?
「本当に些細なことなのですが。」
―構いません。包み隠さず、お教えください。
「はい。本当に恥ずかしいことで申し訳ないのですが。」
―大丈夫です。
「離婚の原因は、主人が一番搾りじゃあなくて二番搾りだってウソをついていたことなのです。」
―それはひどい。
「私も、薄々は気づいていたんです。あ、薄々ってそういう意味じゃあないのですが、分かるじゃないですか。その、疑うこと自体がおかしいのかも知れないですが、普通は一番搾りだと思うじゃないですか。」
―そうですね。私も、そう思います。
「ええ。だから、私も、まさか…とは思ったのですが、二番搾りな訳が無い。常識的に考えて、そんなことはない。そう旦那を信じていたのです。」
―分かります。
「だから、一番搾りであることは疑わずに、結婚生活は続いていたわけなんです。ですが、その、やっぱり結果的に言えば二番搾りだったわけで、そのいつまでたっても…うう。」
―大丈夫ですか?無理なさらず、ゆっくり話して下さい。話さなくてもいいですよ。
「大丈夫です。その、こちらから聞くわけにもいかないので、主人の部屋を色々と調べてみたのですが、そういうのは見つからなくて。」
―なるほど。
「ですが、ある日、水のトラブルクラシアンでして。それで、まあ、全部分かってしまったわけなんです。」
―それは辛いですね。
「本当のことをいうと、一番搾りでも二番搾りでもどちらでも良かったのかも知れません。しかし、では、一番搾りを二番搾りでも良かったのじゃないか?一番搾りが二番搾りだったら、三番搾りでもなんでも良かったのじゃないか。あの、伝わってますか?」
―大丈夫です。分かります。
「色々と、不都合もあったのですが、本当は一方的にウソをつかれていたことがショックだったんだと思います。一番搾りでも、それこそ三番搾りでも良かったのかも知れません。」
―分かります。
「以上です。」
―お疲れ様でした。裁判でも、有利な材料となると思いますよ。
「あの、一つお聞きしていいですか?」
―なんでしょう。
「その、先生は、何番搾りなのですか?」
―私ですか?まぁ、独身なのであまり参考にならないかも知れないですが、私は二番搾りくらいでしょうか。土日は三番搾りくらいでしょうかね。
「そうですか。」
―どうされました?
「いえ、離婚する前に先生と話せていれば、夫のウソに対しても違った態度が取れたかなって。」
―ああ、なるほど。
「しこりも残らなかったように思います。」